ホウレンソウ(ヒユ科ホウレンソウ属)
土壌医●藤巻久志
国内で栽培されているホウレンソウは、1970年代初頭まで固定種のとげが付いた針種の東洋種でした。とげが指に刺さるととても痛く、種まきには苦労しました。今はほとんどが西洋種と東洋種を掛け合わせた丸種のF1(交配種)です。
ホウレンソウの原産地は中央アジアで、初めて栽培されたのはペルシャ(現イラン)といわれています。ホウレンソウは漢字で「菠稜草」と書き、「菠稜」は中国語でペルシャのことです。日本へは17世紀にシルクロード経由で、葉に切れ込みのある剣葉の東洋種が伝わりました。
西洋種はオランダで改良が進み、主に丸葉でとげのない丸種の品種になり、19世紀には米国に伝わりました。日本には明治時代に導入されましたが、土臭いためおひたしやみそ汁の具には向かず、バター炒めなどに利用されました。
ホウレンソウは風媒花の雌雄異株植物で、雌花しか咲かない雌株と、雄花しか咲かない雄株が出現します。F1は、とう立ちが遅く病気に強い西洋種を雌親に、品質の良い東洋種を雄親にします。雌親品種に出る雄株は花が咲く前に抜き取ります。F1は両親の良いところ取りで、病気に強くて品質の良い、種まきしやすい丸種になります。
ホウレンソウは冷涼な気候を好み、長日になるととう立ちするので、夏の栽培はとても難しい野菜でした。しかし、80年代になると品種改良とコールドチェーン(低温流通)の発達により、周年店頭に並ぶようになりました。生育が早く年に10回以上も収穫できる水耕栽培や、寒さに合わせて葉を肉厚にして甘くする寒締め栽培も増えています。
ホウレンソウは草丈25cm前後で流通していますが、実際には35cm以上になったものの方がおいしいです。根は1m以上にも伸び、葉は成熟すると各種の栄養成分が濃くなります。外食産業では大きいホウレンソウをソテーなどにしています。