ダイコン(アブラナ科ダイコン属)
土壌医●藤巻久志
スーパーには一年中交配種の青首ダイコンが並んでいます。1970年代までは東日本で売られているダイコンは固定種の白首ダイコンでした。79年10月に台風20号が神奈川県の三浦半島を襲い、「三浦ダイコン」が壊滅的な被害を受けた際、まき直しをしたのが西日本で栽培されてきた、短期間で収穫できる青首ダイコンでした。
核家族化が進むと大きな白首ダイコンは食べ切れなくなりました。スーパーでは、サイズにばらつきがある白首は統一した値付けができず、約1kgでそろう青首ダイコンを売るようになりました。出荷はビニール袋から段ボールに、持ち帰りは買い物かごからレジ袋に代わっていきました。
青首ダイコンは抽根性といって、青首部分が地上部に出て、太陽の光に当たって緑色になります。抽根部分は寒害を受けやすいですが、品種改良によって耐寒性が付きました。白首ダイコンは吸い込み性といって、根の肩が地上に出ないので、引き抜くのに力が要ります。
3kgもある中太りの「三浦ダイコン」の収穫は、重労働で腰に負担がかかりました。収穫して軽トラックに積み、降ろして水洗い、箱詰めして出荷と、何回も上げ下げしなければなりません。青首ダイコンは抜きやすく、軽量なので出荷作業も格段に楽になりました。
東京都中央卸売市場の旧神田市場が秋葉原にあった昭和時代末、買参人(ばいさんにん)は「女性や子どもが好きな甘いダイコンでなくては売れない」と言っていました。「甘い、甘い」を繰り返して言うと「うまい、うまい」になるとも。
朝のシラスおろしは辛くないと目が覚めないという人がいます。落語『目黒のさんま』の大根おろしは、5代将軍・徳川綱吉が栽培を命じたとされる白首の「練馬ダイコン」だったかもしれません。辛い白首ダイコンも加熱すれば甘くなります。業務用おでんには今も白首円筒形の「大蔵ダイコン」が使われています。